ОГУРЕЦ

キュウリ美味しいね。

時限爆弾のスイッチを押してしまった

 1月末に「今年は月1回はこのブログを更新する」と書いておきながら、案の定2月は更新できずに3月もまたこんなギリギリになっている。一応2月ギリギリにも一瞬だけ投稿していたものの、文章が気に入らずにすぐに下げてしまったのだという言い訳はできるのだが、別にこんな誰に頼まれたわけでもないブログの更新を怠ったからといってなんだという話だ。

 さて、今日2021年3月28日 私は母校の大学を2年ぶりに訪問し、その帰りの電車でこの文章を打っている。なぜこんな日に大学を訪れたのか、これがなかなか奇妙な(?)話なので自分のメモとしても書き記しておこうというわけだ。ブログに書くネタもあまりないので丁度良い。いつも以上にくだらない個人的事情なので、どうしようもなく暇な方のみ読み進めることをおすすめする。

 私は大学時代 室内楽団という部活に入ってバイオリンを弾いていた。バイオリン自体は高校生の頃から始め、その頃親に買ってもらった自分のバイオリンも持っていたため、全くの初心者が多い室内楽団の中では少しばかりアドバンテージがあったはずなのだが、残念ながら飽き性と練習嫌いという最悪な性格のせいで結局在部中も全く上手くは弾けていなかった。
 卒部・卒業してからは、就職と同時に一人暮らしのマンションに引っ越したため部屋で楽器を弾くこともできず、かといって一人でレッスンに通ったり地域の楽団に入るような意欲もなく、部室から引き上げたバイオリンはケースに入れられたまま実家に置かれ、日の目を浴びることなく2年が経過した。もうすでに悪夢は始まっているなど、露とも知らずに。

 社会人になってしばらくして、そろそろ実家にあるバイオリンをメンテナンスに出して、ちょっとくらい弾いてみたいななどと思い始めていた。経験者などと言うと恥ずかしいので初心者と偽ってレッスンに通うのも良いかもしれない。そんなことを思いつつ、ある日実家に帰った際にバイオリンケースを開けてみたら、なんということだ。中には私の物とは明らかに違うバイオリンが入っているではないか!一瞬言葉を失った。こんなことってある!?

 まるで過去からの罠、開けたときに爆発する時限爆弾、玉手箱……そんな風に言ってみるとなんだか小説みたいで面白そうだが、いざ自分の身に降りかかるとそんなことも言っていられない。今まで2年以上も放置していたくせに何を今更と思われるかもしれないが、手元にあるのとないのでは大きく違うのだ。

 バイオリン自体に名前が書いているわけではないし、2年以上見ていなかったとはいえ、さすがに高校生の頃から使ってきたバイオリンを見間違うことなどない。何より、手元にあるバイオリンは本体の色や材質が一般的によく見るものよりもかなり個性的なのだ。絶対に私のバイオリンではない。一瞬パニックになりながらも冷静に考えてみる。

 私が大学を卒業したのは2年前つまり2019年3月だが、最後に自分の楽器を触ったのはもっと前だ。その更に2年前2017年の初めにはロシアに留学するため2016年の夏に同期より一足先に室内楽団を卒部したのだが、その後もしばらくは部室に楽器を置かせてもらっていたと記憶している。

 慌ててかつての部活仲間に連絡をとるが、心当たりのある人はいなかった。普通に考えて、私のようにケースを開けずにずっとしまっていたならともかく、自分の楽器を持つ人ならばきちんと見分けはつくのだ。

 室内楽団での楽器の管理だが、部員は全員自分の楽器を部室の棚に置いておくことになっている。私のように自分の楽器を持っている者は当然自分の楽器を使い、私物を持っていない者は恐らく入部した最初に備品の中から自分専用の楽器を貸与され、卒部するまで同じ楽器を使うようになっているので、他人の楽器を触ることはないのだが、4月の新入生歓迎楽器体験などでは、備品楽器を幾つか出して使っていたため、そういったときに備品と私のバイオリンが入れ替わってしまったという可能性が一番高い。備品ならばよほどのことがない限り部室に残っているはずだ。(廃棄される可能性もなくはないだろうが、さすがにそこまで状態が悪いわけではない)

 とにかく室内楽団へ連絡しなければ。幸い室内楽団には私がいた時分からSNSのアカウントがあり、そこにメールアドレスも記載されていたので、メールを送ってみると、現在部長を務めるYさんという方が対応してくれた。彼女は楽器の管理の甘さを謝罪し、私のバイオリン捜索に協力してくれると言う。学年的にYさんの管理が原因でもないので彼女を責める気はないし、そもそもこんなことは前代未聞なのだ。とはいえ私もバイオリンを取り戻さなければいけないので、Yさんと何度かやり取りをして、仕事が休みである日曜日――つまり今日――部室にお邪魔して備品を一つ一つ確認することになったのである。

 やはり最強雨女、前日までは天気が良かったのに朝からなかなか天気が悪い。誰のものかも分からないバイオリンを抱えながら傘を差しつつ2年ぶりに訪れた大学に懐かしい……という気持ちは全く起きない。自分でもびっくりした。
 正確に言うと実家から(バイオリンを取りに帰るために一旦実家に寄った)大学まで電車を乗りついで移動している間は、「あぁ、ここで乗換えるから降りなきゃ」と焦ったり「当時は駅の階段に一番近い車輛に乗るようにしてたのに、もうすっかり忘れてた」と駅のホームを長々と歩いたりと、当時のあれこれを思い出し、今風に言うと「エモい」感覚に包まれていたのだが、いざ大学の最寄り駅から正門を入り、図書館を横目に学舎の前を通って部室までの道を歩いても、「懐かしい」という感覚はまるで呼び起こされなかった。むしろ昨日一昨日も普通にここに来ていたとすら思えるのだ。

 もし仮にお世話になった先生や見知った後輩などでもいればもう少し懐かしさも感じたのかもしれないが、大学内には少なくとも私が見渡せる範囲では人っ子一人いなかった。聞けば、ついこの間卒業式が行われたばかりで、ただでさえこんな状況下で春休みで授業もなく、加えてこの天気となればわざわざ来る人などいないだろう。そんな中Yさんを呼び出してしまったことに多少の罪悪感を覚えなくもないが、こちらも必死なのである。

 懐かしさを感じることなく室内楽団の部室前で待つこと数分、Yさんがやってきた。部室の鍵を開けてもらい、備品のバイオリンケースを片っ端から開けていき、私のバイオリンを探してみる。

 結果から言うと、私のバイオリンは見つからなかった。

 私の記憶と かなり不鮮明ではあるが辛うじて撮っていた私のバイオリンの写真をもとに、Yさんには事前に幾つか特徴の似ているバイオリンをピックアップしてもらっており、コレなんじゃないかとほぼ確信しているものがあったのだが、実際に見てみると微妙に傷の位置が違ったりしていて、探し求めていた私のバイオリンではなかった。

 絶対にここにあると思っていたのに見つからないとなると、いよいよワケがわからない。誰かが故意に盗んだなどということは考えられない。これが時価数億円のストラディバリウス――とまでいかずとも、それなりに値打ちのあるものならいざ知らず、両親に買ってもらった大事なバイオリンとはいえ、バイオリンとしては平均的な価格のもので、第三者から見て盗もうと思うようなものではないはずだ。

 だとすると、やはり誰かの私物と入れ替わっている――?改めて手元にあるバイオリンを見るが、先述した通り本体の色などが備品にしてはかなり個性的だ。これも誰かの私物ではないか?もしかしたら私と同じように卒業後放置して入れ替わっていることに気付かない、時限爆弾を抱えている人がいるのかもしれない。そう思い、私とは直接面識のない後輩などにも声をかけてもらっているが、今のところ心当たりがあるという人は出てきていない。

 本当にどういうことなんだ。
 今の私には連絡を待つことしかできないのだが、それでもなお解決しなければ――探偵ナイトスクープにでも依頼するか?


6月29日追記

 このバイオリンですが、先日無事に私の手元に返ってきました。
 結局当初の予想通り現部員の一人が備品として使っていたのだが、どうやら連絡に行き違いがあり、その部員の使用している楽器(つまり私のバイオリン)をYさんが確認できていなかったようだ。その後も緊急事態宣言等で大学自体に入れずに引き渡しにここまで時間を要してしまった。
 本当に探偵ナイトスクープに応募することも考えていたのだが、採用されて見つかったとして、ラストに「見つかった記念にちょっと弾いてみて」→ヘタクソな演奏を披露→「下手くそやないかい!」的なツッコミもなく微妙な空気でチャチャチャン♪(VTR終了)→スタジオの松本人志にモヤるコメントをされてCMへ……という一連の流れを想像して憂鬱になっていたので本当に良かった。
 ご協力いただいた方、心配してくださった方、本当にありがとうございました。