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キュウリ美味しいね。

欲しいひみつ道具の話

 先日、電車の中で男性二人組が話をしているのが耳に入った。内容は「ドラえもんひみつ道具を一つもらえるとしたら何が良いか」という、日本人の大半が一度は考えたことのあるようなものであった。

 私も幼い頃に何度かこの話を友人としたことがある。大抵の場合「とりよせバッグ」(知らない人のために一応解説しておくと、どんな物でも、つまりどんなひみつ道具でも「とりよせ」できてしまうチートアイテムだ)に落ち着いてしまうのだが、私はどうも昔からこの手の空想話を真剣に考察したり議論したりするのが好きなようで、悪趣味だと思いながらもこの二人の男性の話につい耳を傾けてしまった。

 一方の男性が選んだのは「スモールライト」だった。彼がそれらを選んだ理由はこうだ。「スモールライトで自分が小さくなることで、どんな場所でも絶対人に気づかれずに侵入できる。タダでどんな場所にも入り放題だし、食べ物だって相対的に大きくなるから少量で満腹になって節約できる」
 なんだか微笑ましい考えだ。「人に気づかれずに侵入」に関して言えば、透明人間になれる道具や人の盲点に入って意識されなくなる道具が確かあったので、そちらの方が便利な気がするが、後半は良い考えかもしれない。
 そういえばスモールライトで小さくなったあとはどうやって戻るんだろう?と思ったが、スモールライトには解除機能もついており、また時間が経つと効果が切れて元の大きさに戻るらしい。

 もう一方の男性は「どこでもドア」を選んでいた。彼はどうやら毎朝満員電車に揺られて出社し、炎天下や寒空の中外回りを強いられている営業マンらしく、「とにかく早く移動したい」「ギリギリまで寝ていたい」「時間がない中で旅行を楽しめる」という理由でのセレクトだった。どこでもドアはひみつ道具の中でも主役的存在だが、欲しい理由がなんだか切ない。

 そもそもドラえもんの道具をもらえるなら、仕事自体をしなくていい状況を作り出せるアイテムを望めば良いし、最初の彼の方にしても大金を手にできるとか、もっと根本的に願いを叶えられる道具があるとは思うのだが、あくまでも現実を忘れない・忘れられないのは大人らしいと言えるかもしれない。そしてこういう中途半端に現実的な点こそ、空想話の醍醐味だと私は思っている。

 ところで、どこでもドアというと昔から思っていることが一つある。それは「タイムマシン、どこでもドアの上位互換説」である。

 つまりどういうことかというと、知っての通り どこでもドアは好きな場所に瞬間移動ができる道具、タイムマシンは過去でも未来でも好きな時代に移動できる道具と認識されている。しかしタイムマシンでは 例えば2021年の日本にいる人間が中世のフランスに行くなど、時だけでなく場所も移動できるのではなかっただろうか。私はドラえもんにそこまで詳しいわけではないので、もしできなければこの話は終わりなのだが、場所移動もできるのだとしたら、例えば「1秒前のフランス」などと時差を限りなく小さく指定すれば、実質どこでもドアとして使えるのではないかということだ。

 もっともドラえもんの道具自体、ピンポイントすぎる用途のものも多いし、子供の頃アニメを見ていて「この状況ならわざわざ新道具出さなくてもあの道具使えばいいじゃん」と思うようなことも結構あったので、タイムマシンと どこでもドアについても同じことが言えるのだが、1回登場したきりもうほとんど出てこないようないわばモブ道具ならともかく、知名度も能力もずば抜けたこの2つの性能が似通っているのはいかがなものだろうか。

 ということで、タイムマシンで時間+場所移動できるという前提で、似たような性能の道具(どこでもドア)が存在する理由として今ぱっと思いついたのは以下の2つだ。

説1:タイムマシンで移動できる時間の範囲は最短でも±1日などと決まっており、時差をほぼなくして移動することはできない。そのためリアルタイムでの移動の際にはどこでもドア(あるいはワープホールなど)の方がふさわしい。

説2:タイムマシンは確かにどこでもドアの上位互換だが、未来デパートにおいてタイムマシンは非常に高価、あるいはタイムパトロールなどの存在がある以上、タイムマシンを使うには何か申請や許可のようなものが必要であるため、どこでもドアという時間移動機能なしの道具の需要が高い。

 説1に関しては、我ながらなかなか説得力のある説だと思うが、かすかな記憶をたどると、のび太の宿題か何かを手伝うために数時間後のドラえもんをタイムマシンで連れてくるというような話があったような気がする。つまり割と近い時差を行き来することも可能なのではないだろうか。

 一方説2に関しても、確かに実際現在タイムマシンとどこでもドアという商品があったとして、タイムマシンを使うためには相当のコストがかかるのだとしたら、とりあえずどこでもドア買おう、となると思う。現実世界で言うところの「通学用にバイクは高いから、とりあえず今使う用の安い自転車を買おう」というのと同じかもしれない。
 しかし、問題はドラえもんがタイムマシンを持っていることがこの説の致命的な欠点だと思う。ドラえもんが22世紀においても特別裕福という描写は覚えている限りない。むしろドラえもんが何か道具を取り出して「未来デパートでこの道具を買って高かった」などと言うことも何度かあったような気がする。そしてタイムマシンの使用についても、特にややこしい手続きを踏んだりする描写もなくバンバン利用しているように見える。

 ……と、ここまでの文章を2019年くらいにはこのブログ用に書いていたのだが、特に続きが思いつかずに放置してしまっていた。つまり冒頭のサラリーマン風男性2人組の会話を聞いたのも随分前のことである。どこでもドアを欲しがっていた彼も、今は外回りなどしていないかもしれない。

 そんな下書きを発掘してきて、せっかくだし加筆修正して公開しようと思ったのだが、過去に思いつかなかったものは数年経ってもやはり思いつかず、かといってお蔵入りにするのもなんとなく惜しい気がするので、潔く中途半端な状態で公開することにした。そうまでして公共の場に流したい文章でもないが、どうせ公開したところで誰も読まないのだから好きにしようではないか。

 ……と、ここまでもまた2021年に書いていたようだが、現在2023年7月まで公開していなかった。というか書いたことを忘れていた。(中盤のタイムマシンの説明の中で「2021年日本から中世フランスへ~」と書いているのは、2021年に修正したからだと思う)

 あまり共感は得られない気もするが、私は私の書いた文章が結構好きなので、このブログの過去の記事にしろ、某所で公開している創作小説にしろ、度々自分で読み返しては「分かる~!解釈一致!」などと思っている。さすがに高校時代やそれ以前に書いた文章などは、今とは考えが違うのが分かっているため読む気にもならないが、大学生以降に書いた文章は恐らく今書いても同じようなものになるだろう。成長していないともとれるが、ここはポジティブに「軸を持っている」と捉えておきたい。

 ちなみに今、私が欲しいドラえもんひみつ道具は「スペアポケット」だ。これは子供の頃この話題になると「スペアポケットは空なので他のひみつ道具が使えるわけじゃありませーん!」と言われる代物だったが、私は他の道具は別に要らないので、単に大容量収納グッズとして欲しいなと思っている。外出時の荷物を増やしたくないし、部屋で置き場に困っているものをとりあえずスペアポケットに入れておきたい。私もまた冒頭のサラリーマン男性同様、中途半端に現実的な大人になってしまった。