ОГУРЕЦ

キュウリ美味しいね。

ちっちゃいことを気にしてしまう、私の悪い癖

「ちっちゃいことは気にするな それワカチコ!ワカチコ!」というフレーズをご存知だろうか。

私たちの世代で『爆笑レッドカーペット』を観ていた人なら一度は耳にしたことがあるであろう、ゆってぃのネタである。

ゆってぃは現在はいわゆる「一発屋芸人」枠でバラエティ番組に度々出演し(正直一発屋と呼べるほど一発当てられていたか?とは思う(失礼))、比較的最近ではこのようなツイートで話題になったピン芸人である。

 

 

 そんな彼が、半年ほど前 私の地元で開催されるお笑いライブに出演すると知り、私はすぐさまチケットを購入して妹とライブを観に行った。ライブには東京03やロッチ、ニッチェ、平野ノラなどの人気芸人らも出演しており、彼ら実力派・知名度の高い芸人のネタはもちろん あまり知らなかった若手芸人のネタも全部面白くて最高のお笑いライブだったのだが、中でも私と妹が一番笑ったのがゆってぃである。

 ゆってぃが登場しただけで私たちは呼吸困難になるくらいゲラゲラ笑い、「ゆってぃー!!」と叫び、最終的に二人して笑いすぎて泣いた。妹の隣に座っていたカップルが「いや、そこまでか……?」という顔をしていたのも覚えている。しかし、私たちが ゆってぃでここまで爆笑するのにはそれなりの理由がある。ゆってぃには大変申し訳ないが、別に彼のネタ自体が世間一般的に見て泣くほど面白かったわけではない。

 話は変わるが、記憶している限りでは私が中学生の頃から、家族で大体月1~少なくとも2か月に1回ほどのペースで通っている焼肉屋がある。そこの店員がゆってぃに似ているのだ。今回はこのゆってぃ店員についての話をしたい。

 この店員をゆってぃと呼び始めたのは、私たちがまだこの焼肉屋に通いはじめたばかりの頃だったと思う。たまたま接客をしてくれた店員の顔を見て「あの店員さん ゆってぃに似てない?」と妹に言ってみたら、妹も「そっくりや!」と二人で笑い転げた。今から思えばそこまでそっくりというわけでもないのだが、当時『レッドカーペット』が流行っていたこともあり ゆってぃの印象はかなり強かったため、少し似ていただけでもそっくりだと思えたのだ。母は「言うほど似てへんやろ」と言っていたが、あまりにも私たちが ゆってぃゆってぃと言うものだから、そのまま我が家で彼は「ゆってぃ」と呼ばれることになってしまった。芸人の ゆってぃにはこれまた大変失礼だが、正直似ていると言われても嬉しくはないだろう。

 いくら常連とはいえ、飲食店の一店員を あだ名を付けてまで家族で話題にすることなどあるだろうか?とお思いかもしれない。ここからようやく本題に入るのだが、私たち家族は正直この ゆってぃ(店員)のことが好きではない。(これから書く「ゆってぃ」は全てこの店員を指すものであって、芸人のゆってぃのことは「ゆってぃ(本物)」と書くことにする。)

 ゆってぃは先述した通り、私たち家族が長年にわたって利用している焼肉屋の店員で、おそらく店長に次ぐナンバー2的ポジションだと思っている。そんな彼の何が嫌なのかというと、簡単に言えば「私たちを認知していること」である。いや、認知していること自体は構わない。10年も通っていれば顔や名前などを覚えられて当然だ。正確に言えば「こちらを認知していることをアピールするような態度」が嫌なのだ。

 例えば注文の際に食い気味で「〇人前ですよね」などと言ったり、毎回ライスを取り分けるためにお茶碗を用意してもらうのだが、それを伝えていなかったときにも「お茶碗は4つでしたよね」と勝手に持ってきたり。良かれと思ってやっているのだとは思うが、正直恥ずかしいからやめてほしい。こういうことが毎回続き、私たちは次第に ゆってぃに対してストレスを感じていった。焼肉屋に行こうという日は「今日ゆってぃおらんかったらええのになー」「ほんまそれ」「でも絶対おるやろなー、はぁ」という会話を必ずするようになった。

 極めつけは、ある日父と私の2人だけで焼肉を食べに行ったときのことである。私が高校を卒業するまでは、両親と私たちきょうだい3人の計5人で行っていたのが、私そして妹が大学生になり実家を離れるなどし、4人、3人で行くことは何度かあったが、どの組み合わせであれ2人というのは初めてのことだった。

 その日もいつものように「ゆってぃは居ないでくれ!」と願う私の期待を裏切り、やはりゆってぃは元気に働いていた。そこまではまだ良い。問題は次だ。注文を受けに来た ゆってぃは、私と父の二人組を見て言い放った。

「このパターン初めてですね笑」

 もう恥ずかしくて耐えられなかった。その場は「ええ、はい、まあ」とテキトーに返事をしたが、やっぱり私たちの家族構成をきちんと把握され、常連だと認識されていることに猛烈な恥ずかしさを感じた。上手く言えないが、私たちは ゆってぃの本名すら知らないのに(別に知りたくもないが)向こうはこっちのことを色々と知っているという状況もなんだか嫌だ。さっきも書いた通り、認知していること自体は構わないし仕方がない。でもそれを表に出さないでほしい。すぐにそのことを母と妹にLINEで連絡すると、ムーン(LINEの白い人間?のキャラクター)が指をさして笑うスタンプが送られてきた。笑いごとではない。

 そこまで ゆってぃが嫌なら別の焼肉屋に行けば良いと思うだろう。しかし憎いことに、実家の周辺ではこのゆってぃの焼肉屋が一番美味しいのだ。もしかしたら常連サービスということで良いお肉を出してくれているのかもしれない。そう思うと、ゆってぃのこともあまり責められない。

 ここまで、私たち家族全員がゆってぃの接客に否定的なような書き方をしていたが、正確に言うと、父だけはゆってぃを高く評価している。父が言うには「ゆってぃは常連客の情報をきちんと覚えてサービスをしてくれる。店員の鑑」だそうだ。まあ確かに、父の言うことにも一理ある。私だって、これがお客は基本的に常連ばかりのような地元民に愛される個人経営の小さな店や、行くだけでステータスになるような一見さんお断りの高級料亭などであればオーナーなり店員に認知され、コミュニケーションをとれることを喜ばしく思うだろう。行きつけのバーで「マスター、いつものお願い」なんて言うのにも憧れている(残念ながら私はお酒がダメなのでこの夢は叶いそうにもないのだが)。

 しかし この焼肉屋はと言えば、安くはないが大きな道路沿いにある大衆向けフランチャイズ店である。位置づけとしてはファミレスと同じようなものだ。そういう店で自分を常連(と言うより「よく来る奴ら」くらいの言い方のほうが良いかもしれない)として認知し、プライベートに片足を突っ込んでくるゆってぃのような店員を好ましく思う人は少数派ではないだろうか。実際に世間一般的にどうなのかデータをとったわけでもないが、少なくとも私たち家族の中では ゆってぃ否定派が80%を占めているわけだ。

 とはいえ、いざ ゆってぃが この焼肉屋からいなくなったら少し淋しいのではないのかとここまで書いていて思い始めた。いくら味や値段が良くても店員があまりにも不快であれば同じ店に10年以上も通わない。あるいはそこまででなくても 、いつも一番に焼肉を提案する父も ゆってぃ否定派ならば次第にこの焼肉屋に通う頻度も落ちていただろう。それに彼の存在が我々家族の団欒に一役買っていると言えなくもない。現にゆってぃ(本物)でここまで笑えるのは焼肉屋のゆってぃのおかげに違いない。

 そう考えるとゆってぃのことも好意的に――とはやっぱりならない、うん。ごめんゆってぃ。あなたの気持ちはありがたいけど、やっぱり心の中だけにとどめておいてほしい。私もゆってぃ(本物)のようにチッチャイことを気にしてはいけないのだろうが。ワカチコワカチコ。