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キュウリ美味しいね。

古畑任三郎 各話紹介(第1シーズン)

 もう先月の話になるが、田村正和さんの訃報は日本中に大きな衝撃を与えた。田村正和さんと言えば『古畑任三郎』だが、以前から書いている通り私は同作品の大ファンで、完結済みドラマの中で人生で一番好きな作品だ。ありがたいことに、知人の中にはニュースを見て私を気にかけてくれた人もいた。

 こんなニュースがなくても、このブログを始めた当初からいつかは書こうと思って半分くらいは下書きに保存していたものの、うだうだしているうちに公開するタイミングを逃していたのが、この度田村さん追悼記念として『古畑任三郎』の再放送もされて、新たに興味を持つ人も多いのではないかと思い、第1シーズンの1話から全話紹介をしていきたいと思う。

 第1シーズンの放送は1994年と、私も生まれる前であるため当然リアルタイムでの視聴はしていないのだが、もう10年以上暇さえあればとりあえず『古畑任三郎』を流し、セリフも自然と覚えてしまうくらいには観ているので、その辺の古畑ファンに熱意で負ける気はしない。

 とはいえお気付きかもしれないが私は好きなものを紹介する文章が非常に下手なので(紹介文以外が上手いとも思わないけれど)、これを読んで「観てみよう!」と思う人がどれだけいるのか疑問だが、とりあえず各回の簡単なあらすじと私の好きなポイントを書いたので、暇で暇でしょうがない人は読んでほしい。暇がない人は読まなくても良いのでとにかく『古畑任三郎』を観てほしい。

 なお私はネタバレを非常に嫌うタチなので、当然この紹介でもネタバレは極力避けたいのだが、好きなポイントを書こうとするとどうしても触れなければいけない&既に作品をご存知の方とも好きなポイントを共有したいという気持ちもある。
 そのため、今回の紹介文ではネタバレになる部分は薄い色で書くようにした。古き良きインターネットの知恵である。ネタバレも問題ない方は目を凝らして見るなりドラッグして反転するなりして読んでください。(万が一背景色が濃い色になっていて意味がなければごめんなさい)

 

第1シーズン

#01「死者からの伝言」 ゲスト:中森明菜

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 若き人気少女漫画家の小石川ちなみ(中森明菜)は、担当編集者であり恋人でもあった男を別荘の倉庫に閉じ込めて殺してしまう。数日後の大雨の夜、確認のために別荘に再び戻ってきた ちなみの元に、雨宿りをさせてほしいと古畑がやってきて——

 記念すべき第一話。私が幼い頃に初めて見た『古畑任三郎』が今思えばこの回の再放送なのだが、なんだか怖い雰囲気でその時は興味を持てなかった。今改めて見てみても、全体的に画面が暗くコメディ色も薄めで、他の回と比べて雰囲気が違う。でもちゃんと観ると古畑の優しい部分が際立つ良い話。
 初回ということもあってか、トリックや推理よりも ちなみの心理描写に重きを置いたような回だが、被害者の「暗号」はシリーズ全部を通しても一番難解じゃないかと個人的には思う。握っていた原稿が示していたのは実は漫画の描かれた表ではなく裏の白紙の部分、これが意味するのは「犯人に繋がるヒントを残しても無駄」つまり「犯人は、自分の死体を一番初めに発見する人物」……被害者もなかなか頭が回らないと思いつかないダイイングメッセージである。
 またこれ以降もシリーズを通してちょくちょく名前が登場する小石川ちなみ。彼女は逮捕後、腕の良い弁護士(後のシーズンで登場する)に恵まれ軽い刑で済み、その後は結婚しアメリカで新たな人生を歩む。こんな風に過去の登場人物の後日談があるとファンは嬉しいものである。



#02「動く死体」 ゲスト:堺正章

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 歌舞伎役者の中村右近堺正章)は車で老婆をひき逃げしていた。その事実を知っている警備員の男に金を支払って口止めしていたが、罪悪感にかられた彼が自首すると言い出したため、口論となって右近は警備員を殺害してしまう。演目終了後、右近は死体をすっぽん(舞台用の昇降機)を使って舞台上へと運び、天井のすのこから転落したように偽装する。楽屋に戻ってお茶漬けを食べたあと 右近が帰ろうとしたところ、事件の捜査に来ていた古畑と遭遇し——

 1話とは打って変わって古畑の白々しく意地の悪い一面が見られる回。懐中電灯のくだりと右近の「あんにゃろぉぉぉ!」は名シーン。殺人を犯した直後という、普通ならばすぐにでも現場を立ち去りたいであろう状況でわざわざお茶漬けを食べるという奇妙な行動の理由は何なのかというのが今回の謎のひとつ。役作りの一環というのはプロ意識高いといえば高いけど……
 また古畑任三郎シリーズは、放送順と作中の時系列がバラバラになっているのだが、恐らくこの回が古畑と部下の今泉の初対面(古畑が今泉に名前を聞いている)。そう思って見ると、二人がお互いにまだどこかよそよそしい感じがしないでもない。



#03「笑える死体」 ゲスト:古手川祐子

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 精神科医・笹山アリ(古手川祐子)はかつての患者であり恋人でもあった田代が他の女と婚約したと知り、殺害を計画する。彼女は自身の誕生日に田代を自宅に招き、その際人を驚かすのが好きな田代を巧みに誘導し、頭からストッキングをかぶった田代を金属バットで撲殺する。その後証拠を隠滅し、自ら警察を呼び「強盗が現れたので正当防衛として殴った」と主張するが——

 色んな意味でシリーズ屈指の面白神回がコレ。被害者の田代もこんな姿で殺されるとは哀れである。事件の検証のため、古畑が自らストッキングを頭にかぶるシーンは伝説となっている。当時は何も思わなかったけれど、すでに大物俳優であったであろう田村正和がこんな若手芸人のような真似をするとは衝撃だっただろう。
 面白さ以外の点で言うと、古畑の慇懃無礼な態度や揚げ足取りのような話し方に対して食って掛かる犯人の態度が私は結構好きだ。



#04「殺しのファックス」 ゲスト:笑福亭鶴瓶

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 推理小説家・幡随院(笑福亭鶴瓶)は秘書との不倫が妻にバレ、離婚で揉めた結果妻を殺害する。その後妻が何者かに誘拐されたように偽装するため、自ら滞在先のホテルに警察を集め、自宅から送信予約したFAXで脅迫状や犯人からの指示を送り自分のアリバイ工作を行うが——

 FAXを使うという、時代を感じる回。予約送信機能を使った可能性くらい素人でも分かりそうなものだけど、この時代はまだメジャーじゃない機能だったのか?でもまぁ仮にそうじゃないとしても、わざわざ犯人(しかも著名人)がこんなややこしいことをするなんて思わないだろうから古畑以外の警察が特段無能ということでもないだろうけど……

 ラストで古畑に証拠を突き付けられた際の幡随院の変顔連発は「芸人が犯人なのでリアクションをギャグにした」らしく、シリーズ通してもこんな演出は他にないと思う。話には直接関係ないが、古畑の甘い→しょっぱい→甘い→しょっぱい……の無限ループが楽しい。



#05「汚れた王将」 ゲスト:坂東八十助

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 棋士の米沢八段(坂東八十助)は、今回の竜人戦で負ければ後がない窮地に立たされている。そこで米沢はどうしても勝ちたい一心で一日目の対局後封じ手に不正を行うが、それを立会人の大石に気付かれてしまう。その夜大石に不正について追及されると米沢は彼を灰皿で撲殺し、事故死に偽装する。たまたま竜人戦の会場となっているホテルに滞在していた古畑と今泉が現場検証を行うと、大石の死には不可解な点が。その翌日、偽装した封じ手を使って有利に対局を進める米沢であったが、最大のチャンスというところで飛車成りをせずに敗れてしまう。それを見た古畑は米沢への疑惑を深めるが——

 将棋というテーマに沿ってなのか、殺人そのもののトリックの解明というよりも論理で攻めて身動きを取れなくして自白させるという回。今泉が将棋研究会に入っていており将棋が指せるという意外な特技が判明する回でもある。また逆に古畑は意外と将棋が弱く、今泉との対局で負けそうになったら盤をひっくり返すという子供じみた真似をするのが笑えて印象的。
 実際の将棋の対局ではこのような不正はできないようなシステムになっているようで、クレームが入ったのか破綻しているからなのか再放送などは恐らくされておらず、あまり観たことがないのだが、結構好きな回ではある。



#06「ピアノ・レッスン」 ゲスト:木の実ナナ

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 世界的な作曲家・塩原一郎が亡くなり、音楽葬を行うことに。彼の教え子であり愛人でもあった井口薫(木の実ナナ)は、遺族から嫌われており葬儀へは参加できず、追悼曲の演奏は塩原音楽学院学長の川合が行うことに。しかし薫は、亡き塩原が築いた学院を金儲け主義で汚した川合のことが許せず、葬儀の前夜にスタンガンで殺害する。そして見事川合の代役として追悼曲の演奏を引き受けるが——

 「人に嫌われているかもと悩んでいる人、安心してください。そういう場合は大抵嫌われています。問題は自分が嫌われていることに気付かない人の方で……(要約)」というオープニングトークがなかなかドキッとする笑
 自分が恐れられ嫌われているが故に、生徒たちが弦の切れたピアノをこっそり取り替えていたということに気付かず、弾きたかった曲も弾けず殺人もバレるという、大人になってから見るとなんだか悲しい結末だなと思う。それでもラストのセリフは気高いピアニストを貫いていて今観ると結構好き。
 そして指一本で「はーるばる来たぜ函館♪」と弾くだけで「ちょっとピアノをかじったことがある」とか言っちゃう古畑が可愛い。



#07「殺人リハーサル」 ゲスト:小林稔

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 時代劇俳優の大宮十四郎(小林稔侍)は、何十年も仲間と共に作品を作ってきた愛着ある撮影所を自身の道楽のために潰そうとする二代目社長・城田の殺害を企てる。最後の撮影だからとリハーサルに城田を誘い、殺陣のシーンで大宮は模擬刀と真剣を取り違えたふりをして城田を斬殺した後事故を主張するが、古畑が計画的殺人だと疑い捜査を進めていく中で、小道具係の男が自分が模擬刀と真剣をすり替えたと自白してしまい——

 第3話と同様、過失致死ではなく計画的殺人だと立証する回。
 殺意の決め手となった「他人から見ればどうでも良いものでも本人にとっては大事なもの」というテーマは後の回でも使われている。
 きちんと逮捕しつつも「愛する仲間を守るため」という人として尊敬できるような動機の場合は、犯人に対しても敬意を払う古畑の人間性が見られるのが良い。



#08「殺人特急」 ゲスト:鹿賀丈史

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 医者の中川は自身の不倫現場を妻に雇われた探偵に撮られてしまう。離婚だけは避けたい彼は探偵を買収しようとするが、依頼人を裏切ることはできないと断られ、探偵を殺害し不倫の証拠写真を奪うことにする。特急列車の中で探偵に睡眠薬を飲ませ、探偵が眠っている間に薬物を注射して殺害するが——

 第5話で将棋の事件を解決した後、帰りの列車内で起きた事件という設定の話。古畑は5話でも話していた「酢豚弁当」を列車内で探し求めている最中に今回の犯人・中川と出会うのだが、他の回でも食べ物に執着することが多く、これまた古畑の子供っぽさが分かる回。
 謎解きとしては、正直そんなんで証明になるのか?とは思うけれど、この回に限らず『古畑任三郎』は「犯人にボロを出させて追い詰める」ことを楽しむものなので、そういう意味ではこの回は犯人と古畑の戦いが最後までドキドキして楽しめる良回。



#09「殺人公開放送」 ゲスト:石黒賢

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 超能力者としてテレビ番組で活躍する黒田清石黒賢)。実は彼には超能力などなくただのインチキなのだが、ある日川辺でトリックのタネを仕込んでいるところをたまたま通りがかった男に目撃され、黒田は男を撲殺し死体を隠す。後日、テレビ番組の収録で自身の「超能力」を披露するも次々と大学教授の神宮にトリックを暴かれ、ピンチに陥った黒田は自ら殺して隠した男の死体を超能力で発見したように振る舞い、周囲はやはり黒田の「力」は本物だと喝采する。しかしその番組の観覧に来ていた古畑は黒田の言動に違和感を覚え——

 古畑が事件現場に一切足を踏み入れず、しかも作中後半まで古畑と犯人が接触しないという珍しい回。収録を見ているだけで事件を解決する所謂「安楽椅子探偵」的作品。
 謎解きのポイントは「カラーグラスをかけていたから死体の服の色を誤認した」点で、古畑がそれを気にしている描写から視聴者はそれが決め手解決するのかと思いきや、それを突きつけられた犯人は上手いこと言ってすり抜け、本当の決め手は被害者の指紋という基本的なもの。超能力、テレビ番組の生放送収録現場という特殊な状況とのギャップが良い。



#10「矛盾だらけの死体」 ゲスト:小堺一機

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 参議院議員・鵜野の秘書を務める佐古水(小堺一機)。彼は鵜野の指示で、鵜野の愛人であるマリを大量の睡眠薬を飲ませて殺害する。しかしその後、自分を身代わりにしようという鵜野の言葉を聞いた佐古水は 鵜野を置物で殴り、マリとの心中のと見せかける偽装工作を行う。しかし実は鵜野は一命を取り留めており——

 season1の中では比較的コメディ感の強めな回。鵜野だと思ったら今泉だったというギャグは何回見ても笑える。
 犯人を追い詰める方法というのが物的証拠ではなく「二度目の犯行をおかすところを現行犯で逮捕する」というのはあまり古畑らしくない気もするが……
 ラストの「古畑さん、あなた友達少ないでしょう」のセリフが好き。



#11「さよならDJ」 ゲスト:桃井かおり

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 ラジオパーソナリティ中浦たか子(桃井かおり)は、付き人のエリ子に恋人を奪われ、ラジオの生放送収録中、曲を流している数分間の間にエリ子を殺害する。たか子は事前に自分の熱狂的ファンが送ってきたという設定の脅迫状を用意し、エリ子は自分と間違われて殺されたのだと主張するが——

 古畑任三郎シリーズ全ての中でも私が特に好きな回・犯人のひとつ。古畑に追い詰められても「で?」と気怠げに言い返す強気な態度は、子供の頃見たときはなんかウザいなと思っていたが、今見ると妙に魅力的。
 今後シリーズ通して登場する「赤い洗面器の男」の話が初登場するのがこの回なのだが、結局この「赤い洗面器の男」のオチが語られることはない……



#12「最後のあいさつ」 ゲスト:菅原文太

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 警視庁の警視・小暮は、孫娘を生原という男に殺された上、生原は証拠不十分で無罪となってしまう。そこで小暮は自ら生原に裁きを下すため、密売人を装い麻薬バイヤーに取引先を指定し、近くの安ホテルで自らそれを張り込むことでアリバイを作ると、ホテルから抜け出し、生原を射殺する——

 被害者遺族の復讐、警察組織の上下関係、麻薬取引、銃撃戦、アクション……といった他の刑事ドラマではお馴染みのテーマ・展開は古畑シリーズでは基本的にないのだが、唯一例外的な回がコレ。ギャグもこれまでに比べて少なめで、他の刑事ドラマの世界観に古畑が入りこんだかのような不思議な印象を覚える。
 その一方で、よく見ていたら視聴者も犯人の言動のどこがまずかったのかをちゃんと推理できるという点は古畑シリーズらしさがあり、第1シーズンの最終回に相応しい回だと思う。

 

  とりあえず、今回は第1シーズンのみの紹介でした。こんな文章で良さが伝わったとは思えないけれど、ドラマの良さは間違いないので是非観てほしい。
 第2、第3シリーズにも好きな回がたくさんあるのでいずれ紹介するつもりだ。